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□We are royal…
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「ユーリ―――!!」
We are royal…
「ユーリ―――!!」
着てすぐに拭いたはずなのにまだ少し濡れているからか、水分を含んだ前髪が張りついて視界を遮る。
鬱陶しいそれを払いのけて顔を上げたら愛しいあの子が走ってくるのが見えた。
こういう瞬間におれは、帰ってきたんだ…って思う。
「グレタ、ただいま」
いつもと同じ空気、
いつもと同じ空間、
そしていつもと同じこの笑顔。
「ユー―――リ―…!!」
「ほらグレタ、そんなに走ったら危な…うぉ、っ」
「ぁ…」
思わず手を伸ばしてもとても届きそうにはない距離を残して、つるン。と綺麗な音を立てたグレタの体が傾いた。
「グレタァ!!?………!」
突然視界を掠めたのはおれが見慣れた青い色。
「…あれ、痛く、ないや」
「危いから走ってはいけないと言っただろう」
「ぁ、ヴォルフラム…」
そう、傾きかけたグレタをうまくキャッチしたのは他でもないヴォルフラムだった。
「嬉しくてはしゃぎたくなるのは分かるが、おまえが怪我をしてもユーリは誉めてはくれないぞ」
「……ご、ごめんなさい」
「怒っているわけではない、ただ気をつけて欲しいだけだ」
「はい…おと―さま!助けてくれてありがとう」
「グレタが無事ならそれでいい」
ホントの『おと―さま!』はこっちなんだけどネ。
そんな突っ込みも、緩やかな曲線を口元に表した綺麗に笑う姿を久しぶりに目にしては…
飲み込まざるを得なくなる。
「大丈夫かグレタ、どっか捻ったりはしてない?」
「うんグレタ平気だよ、ユーリ…」
「ん?なんだいグレタ、」
再びむくりと起き上がったおれの娘はそのまままたとてとてとおれに向かって歩き出し…
「…ユーリ―――!!」
「うぉっ!!!?」
結局控えめながらもしっかりグレタは走っていた。
水で濡れた地面に娘を抱えたまま尻餅をつく。
ドスン…
「……へなちょこ」
「言うな、ヴォルフラム」
支えきれず勢いに呑まれて強かに打った尻は普通に痛………いや、痛くねーかんな!!!
幸いキャッチできた娘に被害はなかった、流石おれだっておとーさま。
「ごめんなさいグレタど―してもおと―さまにこうしたかったの」
「いいんだよ、グレタ。ほら俺に元気なグレタをいっぱい見せて?」
「うん。…ユーリ――!」
「はは、待たせてごめんなグレタ」
腕を回した小さな体は自分も負けじとするかの様に力一杯おれを抱きしめ返してくれる。
可愛い可愛い、おれの愛娘。
それから…
「それとヴォルフラムも、」
「あぁ、待ちわびたぞユーリ」
優しく差し伸べられたその手をおれはグレタを片手で抱いたまま掴んだ――…
「あのねあのねユーリ!」
「なんだいグレタ?」
偶には歩こうと馬を断って、
間にグレタを挟んだ状態で一列になって歩く。
ちなみにグレタの左がヴォルフで右がおれ。
今日はコンラッドもギュンターにも迎えには来ていない。ヴォルフラムによると近々大きな披露宴を開くらしい。
だから忙しい彼らに代わって娘が来てくれた。
「あのねユーリ、ユーリがもうちょっと帰りが遅かったら凄い事になってたんだよ?」
「へ―、一体何が起こる予定だったんだ?」
「えっとね―、グレタじょお―さまになったの――!」
「へ―、グレタだったらきっと綺麗なじょお―様にな………はい?、女王様!!?」
突拍子のない話過ぎて理解するには時間がかかった。
はい?じょお―様って…つまり女王様だよな!!
何で?つかグレタが??うちの娘が―――!!?
まてよ、まさかグレタこの年で結婚!?
そんでもっておれの知らない国のお城とか行くこと決定で『おと―さま今までお世話になりました』とか言われちゃうの――――!!!
理解した瞬間、おれの脳みそが一気に此処まで突っ走った。
「落ち着けユーリ、話は最後まで聞け」
「ぇ、やだ!おれは嫌だぞ!!うちの娘がこの年で嫁ぐなんて絶対に許せな「ユーリ!!」」
え、なにこの横の冷めたつか呆れた目線は…
お前だって父親なんだろ!いつもは父親面して一緒に騒ぎまくってるくせに、なんでこんな時に落ち着いてんだよ!
「ユーリ聞いて!でもグレタじょお―様にはならなかったんだよ」
「え、何で」
「だってユーリが帰ってきたから」
そういって両手ともおれとヴォルフに預けたまま、グレタはおれの脇腹あたりに身を寄せた。
話が、見えない。…でも、可愛い。
「グレタ、その話をもう少し細かく…」
「いーよ―。あのねユーリがもう少し帰りが遅かったら―、えっとなんだっけ…せ、セイケン…コータ、エ?」
「政権交代だグレタ」
「それ―!!をして、じょお―様になったグレタをみておとーさまが困ればいいんだって」
「……は?」
「ただの冗談だ」
「でもグウェンダル言ってたよ―?」
え、何ソレ…
まてよ、つまり…
おれの戻りが遅いから王位剥奪で政権交代、次代魔王がおれの娘で
――……!!
「えっ嘘!それまじで!」
「だから嘘だといってい…「グレタが女王様!!?」」
「…人の話は最後まで聞け、…ユーリ!」
「ゎ、なんだよヴォルフラム急にデカい声出すなよ、グレタまで驚くだろうが」
「グレタ…平気」
「すまないグレタ、しかしこの馬鹿者は放っておくといつまでも誤解を解きそうにはないからな」
「は、誤解…じゃね―だろ。だってグウェンが…」
「兄上は疲れておいでだったのだ」
いいか、しっかり聞いていろ。
え―、片手を腰に添えてふんぞり返るヴォルフラムの話によると……
うちの可愛い可愛い娘のグレタがグウェンダルの部屋に遊びにいったら、当の本人は長時間執務に追われてお疲れ状態。
そこで、仕事の邪魔になると思った健気なうちの娘グレタが部屋から帰ろうとしたら、
『構わない、休憩をするつもりだった』
とメイドにお茶を言いつけグウェンダルはグレタと休憩をとることに。
「………なぁ」
「なんだ」
「それ何か関係あんの?」
「ここからが重要なんじゃないか」
「あ、そう…じゃ手短に…」
「なにかいったか」
「なんでもないデス」
だって話みえねーんだもん。
でえーとなになに?
「あのね、グレタね、グウェンダル凄く疲れてそうだったから…エーフェと一緒に紅茶いれたんだよ―。おつかれさまって」
「グレタはいい子だな!」
「えへへ、そしたらグウェンはね、魔王陛下のふ、ざい…中?…は特に仕方のないことだ、って」
「わ――、なんか今日グウェンダルにあったらなんか言われそ―」
「それはお前が向こうに帰るからだへなちょこ」
「仕方ないだろ!この前のは急に村田に押されたんだから……ぁ、ごめんグレタ。それで?」
突っ込んでたら左手をクイクイと小さな手に引かれた。
わかりました、黙ってますよ。
「うん、だからグレタも…早くユーリに会いたいって。そしたらグウェンも少し楽になるのにねって」
上目遣いでキュッとグレタの手に力が入った。
うお、!なんか胸をつかれたぞ!!
さすが我が娘!おとーさまは愛されてます。
愛娘の言葉に胸に手をあてて…、
でもあれ、待てよ?
それって帰ったらおれ速攻仕事決定じゃん………!!!
「………」
なんか結構内心複雑だな…
「ユーリ?」
「…いや、何でもないんだ、続けて」
「そしたらグウェンがね、いっそグレタが…」
『グレタが魔王になると言ってみてはどうだ』
って言ったの。
「それだ問題発言!!」
「それでグウェン笑ってたの―」
「へ―あのグウェンダルが笑う……っては?グウェンダルが笑っただって!!!?」
「兄上が笑ったというのか!!?」
眉間に皺の間違いじゃ…
て、ん?……おい。
「話知ってたんじゃなかったのかよ」
「ぼくも聞いた話だから。その場には居なかった」
なんだよそれ――!
おまえが説明始めたくせに!
「だがそれが偽りである事に違いはない。兄上はこの国の王としてお前をとうに認めていらっしゃる」
「それは、そうだとは思う…」
例え眉間に皺を何本寄せていても彼の眞魔国に対する思いは本物で、彼はなんだかんだといって何事にも真剣に向き合ってくれる。
勿論、こんな未熟なおれにも…
「それにこの話には続きがあるはずだ」
「え…」
「聞いた話だがな。グレタ、兄上は確かに魔王になる様に『言ってみては』と仰ったのだな?」
「うん、そーだよ―!」
「グレタは魔王になりたいと思った事があるのか?」
「ううん。グレタ魔王はおとーさまがいい―!」
「だそうだ、ユーリ」
「そうだって言われても…ん?」
つまり、その感じからすると言葉に深い意味は…なく、て……
当然あのグウェンダルだってそんなの承知のはずで…
「お前にはっぱを掛けてみたかっただけだろう、兄上は」
「そ―なんのかな―」
「言っただろう、酷くお疲れだったのだ」
それにあの兄上がお笑いになったんだぞ?
酷く真剣な顔でそう言われて思わず想像してしまった。
いつも冷徹真面目な彼が本気でいうとは思いたくないし、笑って本気なんてますます考えられない…
だから、これはきっと………
「…グウェンダルも笑うんだな」
「ぁ、当たり前だ!例えそれがいかに珍しくとも兄上だって笑顔が零れる時位はある………とぼくは思う」
「なんだよそれ…ま、いっか」
何よりもグウェンダルがそんな事を本気でいうやつじゃないっておれはしってるから…
でもさすがにそこまで困らせちゃってるなら執務やんなきゃな―
溜まってんだろーな――
そんな事を頭の片隅で考えていた、けどその前に…
「なぁ、グレタ?」
「な―に―ユーリ」
気になったこと。
「なんでおれにその話をしてくれたんだ?」
「んー?グレタ、しちゃダメ?」
「そうじゃないんだ、なんでもおれに話てくれていいんだよ。でも今のはそうじゃなくて…」
説明しにくいな…
つまり、グレタはおれにグウェンの言うとおり『グレタ魔王になるの――!』
とも言えたわけで…
「でもグレタはおれに最初から話をバラしてくれただろ?」
「あ―…それはね、ユーリ」
おれが精一杯回した頭でそう尋ねたらグレタは擽ったそうに笑ってヴォルフラムを見上げた。
その可愛らしい笑みに優しい微笑みを返している。
「グレタ?」
「エへへ//あのねユーリ。グレタは嘘をつきたくなかったの」
「どうして?」
「だってそういったらユーリは悲しむでしょう?」
「ぇ…」
「ユーリが悲しむ事はグレタも嫌だからだから最初から本当の事を言ったの」
グレタ、グウェンダルは大好きだけどユーリはグレタのお父様でユーリも大好きだから!
…どうやらグレタは、幼いながらに一生懸命おれの事を想ってくれたらしい。
そんな娘が酷く愛しいと思えた。
あ、勿論ヴォルフラムもだよ?
わかっているグレタ。
慌てた様に付け加えるグレタの頭をヴォルフラムが撫でた。
楽しそうに笑うグレタ、
嬉しそうなヴォルフラム、
それから本当に幸せな…おれ。
例え血が繋がってなくたって、
心はそれ以上に……
「グ―レタッ!」
おれは勢い良くグレタの体を抱き上げた。
ヴォルフラムの手からグレタが離れる。
でも…大丈夫。
「わぁっ、…アハハユーリ――!」
「可愛いな、グレタは。おれの自慢の娘だ」
「それから、ぼくの自慢の娘でもあるからな」
左手を抱きとめられたグレタの右手に、
そして右手にグレタを抱いてるおれの左手を取って…
ほら、繋がった……
We are loyal,royal……family.
これが眞魔国一のオシドリ一家の物語。
「さて、さっさと城に戻りますか!」
「それから執務だなユーリ」
「…ぅ、今忘れてたのに」
「へなちょこめ」
end.